F_22_shootingえー、先月、このコーナーで珍しく時事ネタを扱ったところ、今度は「護衛艦レーダー照射事件」「ロシア空軍機領空侵犯事件」なんていうのが起きてしまいまして……まあ、これは飛行機とは基本的に関係ないのでいいのですけど、こう、時事ネタをいつもいつもやってたんじゃきりがないので、これからは時事ネタはブログの方だけでとりあげるようにしようかと思う今日この頃です。

 

とはいえ、今回は前回からの予告があるので、領空侵犯された場合の対処、特に「警告射撃」について、詳しく解説しようと思います(前々回に予告した「視界内戦闘の基本」は、原稿はもうほとんどできてるのですが、来月までお待ちを。スビバセン)。

(前掲の写真は下記の動画からキャプチャしたものです)

 

 

 

 

まずは前回のおさらいです。日本は領空の周辺に防空識別圏を設定し、無通告でこの空域に侵入してきた飛行機に対しては、戦闘機を向かわせるなどして対応しているのでしたね。戦闘機はその侵入してきた飛行機に対し「このままいくと日本の領空を(不当に)侵犯しちゃうから、引き返しなさい」と警告するのでした。

では、もし侵入機が(特に外国政府の所属機――とりわけ軍用機が)、警告を無視して領空を侵犯した場合、自衛隊はどう対応するのでしょうか。

 

 

領空侵犯発生! その時、自衛隊は……?

まあ、このブログを読むよりWikipediaの「領空侵犯」の項を読んだ方が正確ではありますが、あちらは百科事典という性質上、正確な表記を心がけているあまり、門外漢の方にはやや難しく感じられると思います。

 

そこで、このブログでは、できるだけ誤解を招かないよう表現に気をつけながらも、分かりやすく解説することを主眼に、難しいところを端折って解説しようと思います。

 

まず、非武装の民間機が領空を侵犯した場合ですが、この場合は多少のことがあっても原則として撃墜したりしてはいけません。ソ連が冷戦中にこれをやっちまいましたが、その後は民間機への攻撃禁止は明文化したルールとして決められました。

 

問題は外国政府の軍用機が領空を侵犯した場合です。

 

日本の場合に限って説明しましょう。警告を無視して領空を侵犯した軍用機に対しては、

 

・警告射撃を行う
・攻撃を受けた場合は撃墜する

 

ものすごく簡単に言えば以上の二つです。この他に、強制着陸させるというものがありますが、実際に行われたことはありませんし、今後もたぶんほとんどないと思うので割愛します。

 

が、警告射撃については、やるということになってはいるものの、いつもやるわけではありません。
警告射撃ということになれば、規模の大小はあれど、国際問題になることは免れません。そのため、軽微な侵犯であれば、警告射撃を行わず、無線での警告・その後の外交ルートでの抗議にとどめることが多いです。

 

実際には、件数で言えば、日本は(主にソ連に)領空を侵犯されたことは何度もありますが、警告射撃を行ったのは特に悪質だった一回だけとされています。この一回の時は、偵察機が沖縄本島の上空を通過するなど極めて悪質性が高いものでした。詳しくはWikipedia「対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件」をどうぞ。

 

640px-Su-27_on_landingが、先日のロシア機のように「戦闘機が領空を一分間飛行した」だけ、という場合だったら、警告射撃が行われないのもうなずけます(行っても問題はありませんが)。

(画像は先日領空を侵犯した戦闘機と同型機のSu-27。Wikipedia「Su-27」より。2013/02/10閲覧)



日本としては、戦争がしたいわけではありませんからね。やたら撃ちたがるのは、戦争がしたい国や人です。

 

攻撃を受けた場合は撃墜する、については、説明の必要はないでしょう。日本の現行法では「攻撃を受けたと判断して良いものかどうか」判断に困る場合があるという議論がありますが、私は楽観視しています。日本国民が、誰が見ても反撃すべき状況に反応した自衛官を、殺人者として裁きにかけようとするほど愚かだとは、私は思いません。

 

警告射撃の手順

最後に「警告射撃」って具体的にどういうものなのかを解説して終わりたいと思います。
手元にちょっと資料が見つからなかったですが、記憶を頼りに書いてみます……。

 

まず初めに「警告射撃」の最大のポイントは「警告を受けた相手に、これが警告射撃であることを分からせる」ことです。何が言いたいかというと、相手に「警告を受けている」と思わせると共に「(撃墜するつもりの)攻撃を受けている」と思わせてはならない、ということです。たとえ勘違いであっても、相手に「攻撃を受けている」と思われたら、ただの「警告射撃」のつもりだったのに、戦争に発展する可能性があります。

 

このため、警告射撃には細心の注意が払われます。以下のような感じです。

 

・実施機は、対象機のパイロットに見える位置を、対象機と併行する形で、やや前に出て飛行する
(戦闘機の機銃は前方に撃つものですから、自分より前にいる相手の銃撃が自分に当たることは絶対にありません)

 

・実施機は、対象機の針路と平行するように、一定の時間射撃する。
(対象機の針路上に撃った場合、攻撃されたと思われる可能性があります。また、射撃時間が極端に短いと、相手が気づいてくれない可能性があります)

 

また、警告射撃の際、使用する弾頭には曳光弾が十分な割合で含まれている必要があります。曳光弾とは、射撃した際に光を放つ弾で、これを撃つと銃弾が通った跡が光の筋として目に見えます(視界を確保するのが目的の照明弾とは違います)。

 

F-22テスト飛行(機関砲射撃あり)
逆に言うと、曳光弾以外の弾は、射撃されても人間の目には見えません。このため、曳光弾が含まれていない射撃をされても、相手には警告射撃を受けたことが伝わりません。「警告射撃は曳光弾で」と定められているのはこのためです。

 

 

(動画はF-22のテスト飛行の際のもの。二回、機関砲を射撃するシーンがあり、曳光弾の光の筋が確認できると思います)


 

通常、戦闘機の機関砲には六発に一発程度の割合で曳光弾が含まれているので、普通は問題になりませんが、ネトウヨの中には「曳光弾による警告射撃は実弾射撃とは違うからいくらやっても問題にならない」ととんちんかんな主張をするやつがいます。
曳光弾は、本来、射手に弾がどこに当たっているかを示すためのもので、音速の数倍で飛び、相当の破壊力があり、実弾と呼んで差し支えありません。
馬鹿な主張に耳を傾けないようにしましょう。

 

まとめ

二回に渡って、我が国の領空とは何か、それがどのように守られているのか、解説してきました。

領土を守ることは大事です。いざという時には戦うべきというのもその通りです。ですが、私たちは何も好き好んで戦うわけではないでしょう。

 

「領土を守る」といっても、方法は戦うだけではありません。普段、現場の自衛官がどのように働いているのか知ることによって「戦わずに領土を守る方法」を探す役に立てたらいいと思います。