2013年現在の空自主力戦闘機、F-15J

近頃、尖閣周辺で中国の挑発行為が激しくなっています。

「日本は平和ボケしている! 反撃しろ!」と叫ぶ人もいるようですが、いや、「平和ボケ」してるのはあんたの方ですから、と言いたい。

戦争について何も知らないんですね、と。より正確には、国際社会の常識について、と言うべきでしょうか。


 

というわけで、今回はそもそも「領空」とは何か、という点から、一から解説して行きたいと思います。

 

*予告では「視界内戦闘の基本」をやることになっていましたが、予定を変更して時事ネタをお送りします。

 

 

領空の定義

そもそも領空とは、「領土領海の上空」と定められています。領土は分かりやすいですが、領海とは「海岸線から十二海里(約24キロメートル弱)」です。ただし、このルールを適用すると領海が重なってしまう場合には、もっぱら当事国の話し合いなどで国境線を決めることになります。


領土の話では、以下に述べる「防空識別圏」や、他に「排他的経済水域」と呼ばれる領域も出てきますが、ここでは「排他的経済水域」については言及しないので気になった場合はご自分でお調べ下さい。ただし、「排他的経済水域は領海ではない」という基本は押さえておいて頂きたいと思います。


日本には「防空識別圏」と「領空」の区別がついていない人がしばしば見受けられます。まあ、一般の方ならそれも仕方ないかなと思いますが「領土を守ろう!」と叫んでいる「(自称)国士」の中にもそういう方がいるのには失笑を禁じ得ません。「領土を守ろう!」と言っている癖に「領土はどこからどこまでか」を知らないとは。笑うしかありませんね。

 

では「防空識別圏」とは何か。これは、国家が自らの安全を保障するために「領空の外に」設けている空域のことです。
領空の外側であっても、防空識別圏に飛行計画未提出の所属不明な航空機が侵入した場合、その国は迎撃のための戦闘機を向かわせることを諸外国に宣言し、おおむね認められています。

 

というのも、先ほど「領海は海岸線から十二海里」と述べました。しかし、最新鋭のジェット戦闘機なら、領空に侵入してから海岸線に到達するまで三分もかかりません。よって、領空を侵犯されてから迎撃機を発進させていたのでは間に合わなくなってしまいます。


569px-Air_Defense_Identification_Zone_of_Japan3 *画像は日本の防空識別圏を示したもの。一部は大陸にかなり近いことがおわかりになるかと思います。出典はWikipedia「防空識別圏」より。2013/01/15閲覧。原典は「日本航空広報部編、『航空実用ハンドブック』、朝日ソノラマ、2005年1月31日第1刷発行、ISBN 4257037059」だそうです。



つまり、防空識別圏というのは「領空を侵犯されてからでは遅い」ことから、「仕方なく認められている」というだけの空域で、断じて日本の主権が及ぶ「領空」ではないのです。

 

実は、防空識別圏は国際法で確立された考え方ではなく、中には防空識別圏の存在自体を認めようとしない(あるいは指定された空域が不当であると主張する)国もしばしばあるぐらいなのです。

 

いずれにせよ、日本の防空識別圏に入ってはいても領空侵犯はしていない航空機に対し、日本が何らかの強制措置を取ることは、国際法上は不可能です。せいぜい戦闘機を近くに飛ばした上で「このまままっすぐ行くと領空侵犯になっちゃうよ。引き返しなさい」と無線で呼びかけるぐらいです。

 

万が一、日本が領空の外(ということはつまり公海上)の航空機に警告射撃など行おうものなら、それは「公海の航行の自由と安全」に対する重大な脅威とみなされかねません。
「公海の航行の自由と安全」は国際社会で広く認められている考え方で、どの国の領海(領空)でもない海域(公海)は誰でも自由に、かつ安全に航行する権利があるというものです。
この権利を守ることは、貿易立国・日本の生命線であり、日本が自らこの権利を軽視すれば、それは日本にとって取り返しのつかない結果をもたらしかねません。

 

ネトウヨ「し、知らなかった……近づいて来たやつは片っ端から撃っていいと思ってた」

「そ、それじゃ日本の安全が脅かされるじゃないか!」とお思いの方もいるかもしれません。が、ここで一度よく考えてみましょう。

 

まず「領空の外でも、領空侵犯しそうな航空機には、戦闘機を張り付かせたり、無線で警告したりすることができる」「領空に入られたら警告射撃(最悪の場合は攻撃・撃墜)ができる」。ここまではいいですね。

 

だとしたら、問題は「領空のぎりぎり外側まで、外国の戦闘機が来た場合」です。この時にポイントになるのは「宣戦布告の有無」だと思います。

 

N912_rf-4500-thumb-350_jpg350%25-1835宣戦布告が既になされていた場合、領土だとか領空だとかはこの際関係ありません。適用されるのは戦時国際法のみです。よって先制攻撃できます。


 

一方、宣戦布告がされていなかった場合。この場合、先制攻撃するのはほぼ無理ですが、逆に相手もこちらに攻撃を加えるのは難しくなります。また、もし相手から先に撃ってきた場合、重大な国際法違反ですから、国際社会からの一定の制裁を期待することもできます(過信は禁物ですが)。

 

蛇足気味ですが、世の中には意外と「宣戦布告のない戦争」も多いです。が、諸外国から「事実上の戦争状態」と見なされれば、無警告の先制攻撃をしても咎められることはありません(まあ、敵方の同盟国はこちらを責めるでしょうが、いちいち気にしたら負けです)。

 

というわけで「領空のぎりぎり外側まで来た戦闘機を、本当に放っておいてもいいの?」という疑問に対する答えですが「きっちりと戦闘機を張り付かせていれば、過度な心配はいりません。意外とどうにかなるものです。むしろ、挑発に乗ってこちらから先制攻撃した方が、不利になります」ということになるでしょう。

 

まとめ

以上、領空と防空識別圏について見てきました。

 

近頃の日本では過激な主張が幅を利かせる傾向にありますが、蛮勇を誇るばかりで物事を深く考えていない人たちに舵取りを任せれば、かえって損をすることになります。

 

冷静に、日本はいま何をするべきかを考えていくべきでしょう。その点で言えば、2013/01/11現在の日本政府は極めて冷静に対応しており、おおむね賞賛していいと思います(政府首班は、私は嫌いですがw)。

 

次回は、実際に領空侵犯が起きた場合、自衛隊はどう対処するのかを主眼に見ていきたいと思います(でももしかしたら持ち越し続きの「視界内戦闘の基本」をやるかも)。

 

それでは。

 

See You Next FLIGHT!