EA-18Gさあ、今日は電子戦についてです。もっとも、この分野には空戦の他の部分にもまして軍事機密が多く、断片的なことしか一般には知られていないのが実情です。以下に記すのはその一般的に知られていることのうちさらに一部の、筆者が知っていることに過ぎないので、こんなのを書いていてこう言うのもなんですが、あまり過信しすぎないでいただきたい。

 


 

電子戦超基本

さて、電子戦と言われて、全くピンと来ないのが一般の人には普通の感覚だと思います。

 

最初に、電波について簡単に解説したいと思います。電波とは光と同じ電磁波の一種で、光(可視光)より波長が長い(周波数が低い)ものを指します。よって、光と似たような振る舞いをするのですが、地球の上空にある電離層に跳ね返されたり、回折によって遠くまで伝わっていくのが特徴です。電波を介した無線通信は、今日でも広く一般に利用されています。軍事用にも無線通信はなくてはならないものですし、電波によって遠くの物体を探知するレーダーも重要な装備です。

 

電子戦とは、これら電波を利用した軍事機器に対し、妨害電波を発信したり、欺瞞のためのおとりを射出することによって、これらの装備の働きを妨害したり、逆に妨害を防いだりする軍事行動全般を指します。また、有事にそのような電子戦を行うために、平時から相手の無線通信・レーダー波の傍受を行うこと、相手によるそのような傍受を防ぐことなども電子戦に含める場合があります。

 

などと抽象的に言ってみたところで分かりにくさが増すだけだったかもしれません。具体的な話をしましょう。

相手が無線で「あー、もしもし司令部。こちら前線。あの丘に砲撃してくんね?」「言葉遣いを改めたまえ、軍曹」などと愉快な会話をしているところに、同じ周波数で「ピーーーーーーーーーーーーーーー」などという音を送り込んで通信を妨害すれば、これも立派な電子戦です(実際にはこんな風に単純ではないでしょうが)。

 

もちろん、無線機から「ピー」なんて耳障りがしてきたら、相手も周波数を変えますよね。こういう時にどういう周波数に変えるかは、事前に取り決めてあるものです。相手は手早く事前の取り決め通りの周波数に無線機を切り替え、無事に通信続行……ではこちらとしても悲しいので、また新しい周波数に妨害をかけるとしましょう。

 

イタチしかしそれでは相手はまた元の周波数に戻して通信を再開するかもしれません。これではいたちごっこです。

 


 

では、両方の周波数に妨害をかけますか? しかし、妨害をするには電力が必要です。それも、二つの周波数に同時に妨害をするということになれば二倍の電力が必要です。それでは、妨害装置という機械を作って、相手が話している周波数を自動的に探知して妨害してくれる機械を作りましょうか。すると、相手も無線機を改良して、相手の妨害を探知して自動的に周波数を変える無線機を作り出すかもしれません。どうです? 楽しくなってきました? (私だけ?)

 

いま、さりげなくちらりと触れたように、出すことのできる妨害電波の出力・帯域幅は、電源出力との兼ね合いになります。特に、飛んでくれなければお話にならない軍用機にジャマー(妨害装置)を積む場合、これは大きな問題になります。そこで、ジャミング(妨害)は適切にマネジメントしてやる必要があります。理想は、必要な出力を、どんぴしゃの周波数に、適切な方向だけに放射することです。

 

もうちょっと込み入った話

というわけで、ジャミングと一口に言っても色々な種類があります。

たとえば、相手が使用している周波数全てに妨害を試みるバラージ・ジャミング。相手の信号をリアルタイムに捕らえてそれに適時対応して妨害周波数を変えるトランスポンダーやリピーター。


無線通信ではなく、レーダーの場合はこんなのもあります。レーダーは電波を送ってその反射波で相手の位置を知るわけです。

 

いま、相手が「あ」という電波を送ってきたとしましょう。こちらの妨害装置は「あ」を探知すると微妙にタイミングをずらして「あ!」という電波を送り返します。ただし、出力を大きめにして。すると相手は微妙にタイミングがずれた「あ!」という電波を受信することになり、位置の測定を微妙に間違えるのです。少なくともこの妨害を突破しなければミサイルの命中に必要な精度は得られないでしょう。本来はもうちょっと正確を期したたとえをするべきですが、初心者の人にもわかりやすくがモットーのコーナーなのでお許しください。

 

2012年現在、ロシアや中国の偵察機が時々(といっても実はけっこう頻繁に)日本の領空のすぐそばまでやってくるそうですが、彼らの目的のうちの一つは、自衛隊の無線やレーダー波を傍受することにあります。それらの周波数などの情報があれば、いざという時、電子戦に非常に役立つからです。もちろん自衛隊の側もそれは分かっていますので、普段使っている周波数と、いざという時に使うと決めている周波数はきっちり分かれています。ロシアや中国としては、自衛隊がいざという時に使うと決めている周波数を知りたいので、しばしばこっちが「やばい。撃たれる」と思うような危険な行動に出たりするわけです。

 

このように、各国で日々繰り広げられている電子戦は熾烈なものがあります。電子戦は、特にミサイル主体の現代の空戦や海戦において勝敗を決定づける影響力を持つ重要な分野です。この分野に秀でているのは米軍でして、一説によると、米海軍の最新鋭電子戦機は、相手のレーダーから消えることができるほど高い電子戦能力を持っているとのことです。まあ、これはちょっと眉唾ものですが……というのは、目下の技術レベルでは、このような電子戦は妨害電波を出して行われることが一般的なので「妨害電波を出してるやつがこっちの方向にいる」ということは、まず間違いなく相手に逆探知されてしまうからです。

 

具体的な話

また、電子戦の基本は、相手の電波を探知することです。それ専用に作られた航空機すらあるほどなのですが、ここでは戦闘機の話をしましょう。戦闘機にも、全周どこからレーダー波を浴びせられても分かるように、機体のあちこちにアンテナがつけたります。アンテナがレーダー波を探知すると、コクピットのレーダー警報器に表示されます。

 

またレーダーは普通、捜索モードと火器管制モードの二つのモードを切り替えて動かすことができます。捜索モードは、簡単に言うとレーダーが常時回転していて、レーダービームを浴びたとしてもほんの一瞬です。それに対して、火器管制モードはミサイルの誘導に必要な精度をリアルタイムに得るためにレーダーの回転を止め(いや、最近のレーダーはもっと進歩していますが、ここでは話を簡単に(以下略))、レーダービームを継続的に浴びせます。レーダー波を傍受する側からすれば、相手がこちらを攻撃しようとしているかどうかは一目瞭然なわけです。このため、パイロットは自機がロックオンされると、レーダー警報器が鳴り響くのを聞いてそれを察知できます。当たり前のことのように思えますが、これも重要な電子戦です。

 

最後になってしまいましたが、電子的なおとり(デコイ)について書きましょう。

現代のジェット戦闘機が出てくる映画で、ミサイルを撃たれた戦闘機が、赤い火の玉をいくつか落としながら回避運動に移る映像を見たことがある方もいるかもしれません。

 

640px-F-15E_391st_USAF_081215-F-7823A-931この赤い火の玉は、代表的なおとりの一つです。この赤い火の玉は「フレア」と呼ばれます。前回の記事で説明した赤外線誘導ミサイルの狙いを自機からそらすため、フレアは自機から放出されると大量の赤外線(熱)を放出し、ミサイルの注意を逸らすおとりとして働きます。

 


 

フレアでは赤外線誘導ミサイルしか妨害できませんので、レーダー誘導ミサイルを妨害するおとりもあります。それがチャフです。チャフは基本的にはただの金属片ですが、レーダー波に激しく反応して、レーダー誘導ミサイルの狙いを逸らします。また、ベトナム戦争時代はチャフを大量にばらまいて相手のレーダーに対する目くらましとしたそうです(現代ではレーダーが進歩しているのでそう単純にはいかない……のではないかな、と思います)。最近ではチャフも進歩していて、相手が使っている周波数に合わせて適切な長さの金属片を機上で(金属テープを切断して)作りだしてばらまくことができるそうです。

 

信用すると損をする次回予告

えー、長々と戦闘機の装備に関する説明を続けてきましたが、それも今回で終わりです。
次回からはいよいよ空戦の解説に入ろうと思います。


……あ、でもその前に、ちょっと小話を挟むかも。


ではまた。

 

See You Next FLIGHT!