pilot_of_edelweiss以前「おすすめ戦闘機本紹介~フィクション編~おすすめ戦闘機本紹介~フィクション編~」と題した記事の中で、フランスのバンド・デシネ(フランス式漫画)航空戦記をご紹介しました。今回は同じ作家さんの続編「エーデルワイスのパイロット」が出たので、自信を持ってご紹介します。

 

今度の舞台は ”The Great War”

美しい飛行機の絵を描くということで、日本の航空ファンの中でも知名度の高い作画家「ロマン・ユゴー」氏の前二作「ル・グラン・デューク」と「雲の彼方」は、いずれも第二次世界大戦を舞台としていました(画像はアフィリエイト)。

 

ところが、今回の舞台は一転して”The Great War”との異名もある第一次世界大戦。
第一次世界大戦というと、日本では恐ろしくマイナーな題材ではあります。が、この戦争が欧米世界に与えた影響は、第二次世界大戦のそれに勝るとも劣らぬものなので、フランス人のユゴー氏(と原作のヤン氏)が第一次世界大戦を題材に選ぶのは、さほど不思議ではありません。

 

SPAD_SVII_4……が、やっぱり、フランス人だからフランスの飛行機が描きたかったのかな、とは思っちゃいますねw(前二作は、フランスが早々に脱落してしまった第二次世界大戦が舞台であるという都合上、フランス機は登場しなかったので。画像はフランスの傑作戦闘機(らしい)スパッドVII)

 

さて。「エーデルワイスのパイロット」の物語は、第一次世界大戦が終盤に入った、1917年からスタートします。

 

双子の兄弟を主人公に据えたストーリーは、少し追うのが大変

800px-St._Chamond主人公は双子の兄弟で、兄はフランスの戦闘機パイロットとして日々ドイツと戦っています。一方の弟はというと、以前は兄と同じ戦闘機乗りだったらしいのですが、なぜか今は左遷されて戦車の車長に(画像は当時の戦車)。

 

物語は、敵と生命のやりとりをする悲惨な戦場と、女性たちと過ごす優雅なパリでの休暇……そして、二人の過去が明かされるフラッシュバックとが、次々に切り替わりながら進んでいきます。

 

これだけでも十分追いつくのが大変なのですが、さらに話をややこしくしているのが、この兄弟、双子だからという理由で顔がそっくりなんですねw おかげで最初はどっちが弟でどっちが兄なのかと……

 

でも読んでるうちに何となく、この双子が「弟は内向的で暗い性格をしている反面、実直で真面目な好青年だけど、兄は楽天家で気が明るい一方で、どこかご都合主義的でいけ好かない人物」だな、というのがわかってきます。

 

ここで「双子もの」のお約束である「入れ替わり」が入ってきたりするんで、話はさらに複雑になりますが、基本的な話の筋は「面倒ごとを弟に押しつける調子の良い兄と、人が良すぎるせいでそれを断れずに苦労を背負い込み続ける弟」という構図です。

 

でも、兄も兄で、良いところがあったりはするんですよ。楽天家の兄は根暗な弟と違って女性に受けがいいので、兄が上手く弟の恋を取り持ってあげたりね。まあそのことを後になって「あの時の借りを返せ」とか言って無理難題を押しつけてくるんで「この兄貴、外道である」になってしまうんですが(汗

 

総じて言うと本作のストーリー面は、快刀乱麻を断つがごとき勧善懲悪とはほど遠い、苦々しい大人の愛憎劇に仕上がっている、という感じでしょうか。

 

もっとも、結末は(ネタバレになってしまいますが)悪には罰が下り、善良な人物は報われるという、(手放しには喜べないものの)それなりのハッピーエンドです。

 

この点、悲劇的な結末の中に救いがちょっとだけある……というより、ちょっとだけしか救いがない、という終わり方の前作「ル・グラン・デューク」より、個人的には本作「エーデルワイスのパイロット」の方が好きかな、と感じます。


Kiyotake_Shigeno_01ちなみに、本作にはフランス陸軍航空隊に志願し戦闘機パイロットとなった「滋野清武」という実在の日本人が、脇役としてちょこちょこ顔を出しますw 作画のユゴー氏は以前に日本の特攻隊員を題材にした短編も描いていますので、もともと日本に好意的な人なのかもしれませんね。

 

相変わらずの描き込みぶり。そしてフルカラー

ストーリー面を語るのがメインになってしまいましたが、フランス式漫画「バンド・デシネ」は、日本の漫画と違ってストーリーよりも絵の方が重視されるらしいです。

 

さて、その絵。絵は私の専門外なのであまり詳しいことは言えませんが、前二作に引き続き相変わらずの描き込みぶりで、すごい絵ですね。飛行機のメカ描写も細部まで描かれていますし、陸戦兵器にも手抜きはありません。飛行機なんか、一機ずつカラーリングが違ったりとかもあったりで「こだわってるなあ」と。二十世紀初頭のパリの街並みも雰囲気十分に描かれているほか、ところどころ出てくる女性の裸も綺麗ですねw

 

ただ、日本の漫画と違うのは、一枚一枚のコマの一瞬一瞬を写真のように抜き取るのが向こう流なんですかね。日本の漫画だと躍動感みたいな「動いている感じ」や、そこから生じる迫力とかスピード感のようなものも重視されますが、そういうのは本作にはあまりなくて、ある意味そこは日本式の方が上かな、と。

 

しかしそれにしても、フルカラーというのはやはりこちらがすごい。色の塗り方も一コマ一コマ丁寧で、非常に味のある塗り方をしていますね。日本のいわゆる「アニメ塗り」とか「エロゲ塗り」とかいうんでしょうか、ああいうものとはまた違った塗り方なんですね。西洋風なんでしょうか、こういうの。

 

思うんですけど、バンド・デシネ作家って向こうではどう生計立ててるんですかね? これだけの絵を、しかもフルカラーで描くのには相当な時間を(つまりお金を)かけているはずで、それをいきなり単行本で出すというのは、商売として考えた時にものすごくリスキーで、とてもじゃないけどできないんじゃないかと思うんですが……

 

日本の場合は、そういったリスクを低減させるために、まずは雑誌連載から入る(作家は原稿料で食いつないで単行本で儲けを出す)とか「カラー版を出すのは人気作だけ」という形式が定着しているわけですが、向こうでも似たような仕組みがあるんでしょうか? ……それとも、フランスでは十分リスクに見合うぐらいの単行本売り上げが見込める、ということなんでしょうか。だとしたら、それはそれでフランス文化スゲーってことになりますね。

 

まとめ:航空ファンや、異文化交流に熱心な人におすすめ

さて、ここまでほとんど手放しで褒めちぎってきましたが、実際のところ、本作を万人に向けておすすめするのは、ちょっと躊躇われます。

 

日本式漫画とは全く異なるその画法は、見る人にとっては異質でしょうし、ストーリーも、日本の人気漫画の方が読みやすくできています。

 

総じて娯楽性の面では日本の漫画の方が上だろう、とは思いますね。ただ、バンド・デシネは向こうでは娯楽というより芸術と考えられているそうでして……そのへんは考えておく必要があるかな、と。また、大判とはいえ、200ページに満たない作品が3000円というのはちょっと……となる気持ちもわかります。

 

しかし、その点を差し引いても、やはり航空ファンにとっては、この丁寧に描き込まれた飛行機たちは魅力的です。やはり、絵には写真とはまた違った魅力があるように思います。


また、フランスの文化が垣間見えるという点でも、本作は興味深いと、個人的には思います。フランスは世界でも特に日本の漫画が売れている地域の一つと言われますが、なるほど、こういう下地が文化としてあったのかと、思わずうなってしまいます。

というわけで、航空ファンや、異国の漫画文化に関心がある方は、是非手にとって読んで欲しいな、と思います。