えー、私がホームページの一角で長編小説「とある愛国者からの手紙」を連載していることは、知る人ぞ知ることですが、今回は連載と連動した特別企画ということで、英国空軍が誇る救国の戦闘機「スピットファイア」をご紹介します。
「とある愛国者からの手紙」は、第二次世界大戦を背景にした小説ですが、作中では日本と英国がそのまま入れ替わっています。
そこで、英国の名機「スピットファイア」が、日本空軍の主力戦闘機に形を変えて「吐炎(とえん)」という名前で登場するわけです。
吐炎は戦争中一貫して主人公の乗機となり、作中でも何度も登場する印象深い機体です。ここでは、その吐炎のモデルになった「スピットファイア」がどのような機体であったかについて、解説したいと思います。
スピットファイアの戦歴
まず始めに言っておきたいのは、スピットファイアは英国人にとても愛されているということです。日本人が零戦を愛するのと同じぐらいか、もしかしたらそれ以上かもしれません。
これには特別な背景があります。第二次世界大戦が始まって二年目の1940年、ドイツのヒトラーはフランスを攻略し、次なる標的をイギリス本土に定めました。しかし、島国であるイギリスへ進行するには、当たり前ですが海を渡らねばなりません。
当時、英国海軍は往時ほどの勢いはなかったとはいえ再建途上のドイツ海軍よりは遥かに強力で、英国沿岸の守りも堅く、連戦連勝のドイツ軍といえど、おいそれと上陸作戦を決行できる情勢ではなかったのです。
当初、ヒトラーはフランスが降伏してイギリスは大陸への道を失ったのだから、講和に応じるだろうと高をくくっており、イギリス側にもそうした動きがありましたが、すったもんだの末、イギリスは講和を拒否して徹底抗戦を選択します。
そこでヒトラーは空軍を使って攻勢に出ることにしました……後の歴史家の研究で、この航空攻勢とその後の上陸作戦(「あしか作戦」あるいは「ゼーレーヴェ作戦」の名で有名)は、用意周到に計画されたとはとてもいえないずさんなもので、特に上陸決行の前提条件をどうやって満たすかという具体策に欠けるなど、後世から見ればとても成功の見込みのないものだったことが分かっています。
が、当時のイギリス人はそんなことは知る由もなく、イギリス本土上陸を唱えて怪気炎を吐くヒトラーに、戦々恐々としていたのでした。
そして、イギリスに上陸するドイツ陸軍の先駆けとして、露払いのために飛んできたのが、無数のドイツ空軍爆撃機と、それを護衛する戦闘機だったのです。
そんな大英帝国最大のピンチに颯爽と現れたのが、最新鋭戦闘機「スピットファイア」でした。
当時、ドイツ空軍の主力戦闘機「Bf 109」に対抗可能な戦闘機は、英国には「スピットファイア」しかなかったと言われます。
スピットファイアは、やや性能の劣る戦闘機「ハリケーン」と共にドイツ空軍と空の死闘を演じ、ついにドイツ空軍の撃退に成功、ヒトラーの英本土上陸作戦を中止に追い込みます(なお、この戦闘を「バトル・オブ・ブリテン」と言います)。
その後も、第二次大戦を通じてスピットファイアは改良を受けながら第一線に留まり続け、英国を代表する戦闘機となります。
以来、スピットファイアは英国人から愛されるようになり、しばしば「救国の戦闘機(Salvation of a Spitfire)」とまで呼ばれるようになったわけです。
スピットファイア、その性能とは
では、そのスピットファイアとは、どのような戦闘機なのでしょうか。
スピットファイアの特徴としてまず挙げられるのが、その「楕円翼」と呼ばれる、翼端が楕円を描くように広がった、特徴的な主翼です。
同世代のライバル、ドイツ空軍のBf 109と比べますと、109は翼端はハサミでばっさり切ったかのような直線で、主翼前縁・後縁も角張ったような直線なのに対し、スピットファイアは曲線を描く優雅な主翼を持ち、とても対照的です。
(画像はいいものが見つからなかったので家にあるプラモデルですw)
しかもこの主翼、とても薄い! 主翼を薄くすると空気抵抗が抑えられて速度が上がるのですが、当然、強度に不安が生じ、壊れやすくなります。しかし、そこをスピットファイアの設計者は巧妙に構造に工夫を凝らし、戦闘機として実用的な強度に仕上げたばかりか、6~8丁の機関銃という強力な翼内武装の搭載さえも可能にしたのです。
そして、多くの場合において、戦闘機の性能を決める最大の要素となるエンジンは、ロールスロイス製の「マーリン」エンジン。戦時中の傑作エンジンとして名高く、イギリス製にも関わらず、後の改良型をアメリカの戦闘機でさえ採用したという、名エンジンです。
と、このように大変な傑作戦闘機として歴史に名を残したスピットファイアですが、大きな欠点が一つ。それは、航続距離が短い、ということです。
予め英本土の防空や欧州大陸での戦いに的を絞って開発されたスピットファイアは、長距離を翔破して敵地に侵攻するというのはあまり考えられておらず、このことはイギリスがアメリカと共にフランス奪還作戦を決行する際には、やや問題になったようです。
ですがまあ、(おそらく英国人にとって最も重要な)バトル・オブ・ブリテンは迎撃戦でしたので、大した問題にはならなかったようです。
スピットファイア、かく戦えり
さて、そのスピットファイア、戦闘ではどのような結果を残したかというと、当時、向かうところ敵なしと思われたドイツ空軍を相手にして、互角以上の戦いをしたと言えます。
実戦におけるスピットファイアの特徴としては、一般に、ドイツ空軍の戦闘機Bf 109が急降下性能に優れていたのに対し、スピットファイアは旋回性能に優れていたとされます。
しかし、突っ込んだ議論をしてみると、当時のパイロットの意見にしろ、今の歴史家の意見にしろ、諸説入り乱れて判然としません。中には、Bf 109の方が旋回性能は優れていたと主張する人もいるほどです(ただ、私の小説の作中では、混乱を避けるために一般的な説を前提にして記述してあります)。
いずれにせよ、英国の危機にスピットファイアが見せた活躍は、今後も長く語り継がれていくのではないでしょうか。