PPW_hirogaruyamayama500-thumb-500x750-708またしてもヘルマン・ヘッセ作品です。

私はこれまで、ヘッセの作品を色々読んできました。デミアンに始まって、ガラス玉演戯、春の嵐、クヌルプ、車輪の下、荒野のおおかみ、青春は美し、メルヒェン……特にデミアンとガラス玉演戯、春の嵐には感動しましたが、今回、「郷愁」を読んで、それに勝るとも劣らない感動を受けました。

 


 

ペーター・カーメンチントの半生

 

---------------以下ネタバレ含む------------

主人公のペーター・カーメンチントは、ドイツ南部の山奥の寒村に生まれますが、幼い頃から才能を見いだされ、やがて都会に出て高等教育を受けるようになります。

ペーターはやがて文筆家として身を立てますが、都会の文明に失望し幻滅を感じ、自然を礼賛する思想に強く惹かれますが、一方でひどい人間嫌いに陥りそうになってしまいました。

ペーターは自然に対する愛と人間に対する愛を両立する道を探し求めます。

幸運にも、彼は様々な人々との出会いと別れを経て、彼は一種の悟りに至り、書き続けていた大作をいったん机の奥にしまい込んで、故郷の寒村に帰って年老いた父親と共に暮らし始める、というのがこの作品のあらすじです。

--------以上ネタバレ---------------------------

 

PPW_nihonteien500-thumb-500x750-705この作品のキーワードを一つ挙げるとすれば、それは「愛」ですね。本当に、行間から故郷の豊かな自然と素朴な人間存在への愛が溢れてくるのが目に見えるような、そんな愛に満ちた小説でした。この小説に必然的に混在する現代文明批判も、ヘッセらしい愛に満ちた目線が伴っており、それは母親がはしゃぎ回る子供を眺めるような優しさを感じさせます。

 


 

私事になってしまって恐縮なのですが、私はこの「郷愁」を読んで、自分の作品はなんて愛のない作品だったんだろう、と思い知らされました。私は最近の自分が書いた小説に、言い知れぬ閉塞感を常々感じていたのですが、それは閉塞感ではなく愛の欠如だったのではないかと今にして思います。

私がユーモアだと思っていたのは、実は冷笑混じりの皮肉であり、私が人間の実態だと思っていたのは、ただの私に内在するルサンチマンの嫉妬と羨望だったのだ、と私はこれ以上ない形で気づかされました。

この点を反省して、現在新作長編を執筆中です。

 

こんな小説が書けるなんて、すごすぎる

この「郷愁(原題:ペーター・カーメンチント)」は、文豪ヘッセの出世作となった名作です。ヘッセは十代にして詩人になりたいと堅く願うようになりますが、そのために多くの苦労を背負い込みます。それでも苦難を乗り越えて少しずつ新進詩人として名を知られるようになり、そしてこの作品でヘッセは人気作家としての地位を確立させました。

 

villageで、そんな背景を踏まえて言うのですが、この作品で主人公は文筆家として名を成すチャンスに恵まれながら、それをひとまず置いて田舎に帰ってしまうのですね……そして、読者はそのことをすっかり受け入れさせられる、といいますか、その場面に達する頃には自然と受け入れられるようになっているのです。



でも、普通は書けませんよね? だって、これから作家として栄達を得ようとするヘッセが、その作品内で文筆業を捨てて田舎に帰ってしまう青年を、全く疑問の余地のない形で描くんですよ?


私は正直、自分にはそんな話書けないな、と思いました。いや、ヘッセと自分を比べるなんてそのほうがおかしいのですが、しかしひしひしと思い知らされました。俺には全く修行が足りていない、と。

 

というわけで、経済的栄達ばかりを追い求める人生に疑問を感じている青少年の方には、是非とも読んでもらいたい作品です。きっと本書はあなたに、大いなる示唆を与えてくれるでしょう。