ビッグベンさて、突然ですが、皆さんが読書に目覚めたのはいつ頃でしたか? 私は、幼少の頃から写真がたくさん載った図鑑を見るのが好きだったものの、活字の本に熱中する、という体験をしたのは、小学五年生の時が初めてでした。

 


 

初めて恋した本

五年生の一学期の頃、学校の図書室に、シャーロック・ホームズの漫画版が置いてあるのを見つけました。読んでみると、絵の方は同じ顔の登場人物が頻出するのであまり良くなかったものの、話はなかなか面白かったので、子供心に「へえ、シャーロック・ホームズって、有名なだけのことはあるなあ」と偉そうに思ったものでした。

そんな流れがあったので、夏休みの読書感想文に、私はシャーロック・ホームズを題材にすることにしました。シャーロック・ホームズには五十六本の短編と四本の長編があるのですが、選んだのは長編「四つの署名」です。理由は、かの高名な名探偵、江戸川コナンくんが一番好きなホームズ作品らしいから、というものでした。しかし、読んでみるとこれがなかなか難解で、私は感想文を仕上げるのに四苦八苦したような覚えがあります。

 

まあ、このように、私と小説版シャーロック・ホームズの出会いは幸福なものだったとは言い難いのですが、その後、私はどういうわけか(というのは、自分でも覚えていないからなのですが)またシャーロック・ホームズに手を出し、次第にその魅力に取り憑かれてしまったのです。図書室にあるシャーロック・ホームズを全部読破し、次はアルセーヌ・ルパンに取りかかりました。気がつくと、その年の生徒別貸出冊数で三位に入っていました。今思うと、これが私にとって最初の「活字に熱中する」体験であり、この時に読んだ本の登場人物たちは、後の私の人格形成に大きな影響を与えたように思えます。シャーロック・ホームズへの傾倒は、私にとっての「幼年期の終り」だったのでしょう(どうでもいい蘊蓄:「幼年期の終り」はアーサー・C・クラークの有名なSF小説)。

 

シャーロック・ホームズってどんな本?

 

衛兵さんさて、このシャーロック・ホームズシリーズ。基本的に、シャーロック・ホームズの相棒のワトスンが、自分の視点からホームズの活躍を記録に書留めている、という形式をとります。

 

何が面白いのかというと、まずはキャラクターでしょうか。シャーロック・ホームズを一言で表すなら「変人紳士」ですかねえ……。相棒のワトスンと出会ったばかりの頃、ひょんなことからワトスンはホームズが、地球は太陽の周りを回っていることを知らないのを知り、驚きますが、当のホームズは「僕は人生に必要ないことはすぐに忘れるようにしているんだよ。脳の容量には限りがあるからね」的なことを言って気にもとめません。

(写真はWikipedia「近衛兵(イギリス)」より。2013/01/02閲覧)

 

他にも「考えなければいけない時は食べないようにしているんだ。胃に行くはずの血液を脳に回すためにね」とか言ったりしますし、実はホームズ、コカイン中毒だったりします(まあ、当時は今ほど危険視されてなかったのですが)。

こんな風に、一見すると駄目人間に見えるホームズですが、頭の切れはピカイチで、次々と難事件の謎を解き明かしていく様は痛快です。

先ほどは駄目人間の部分を紹介しましたが、一方でホームズは濡れ衣を着せられた若者を助けたり、悪を滅ぼすためなら命を賭けたりと英国紳士らしい温かみも持っています。

 

また、ホームズというキャラクターを語る上で要注目なのは、彼の女性に対する態度です。時に侮蔑するようで、時には優しく、彼の女性に対する態度は全六十作品あるシリーズの中でも回によって異なります。きっと、過去には女性にまつわる複雑な出来事があったのだろうな、と私などは想像します。それもまた面白いです。

 

そして、ホームズは多芸な人で、巧みなバイオリン演奏を披露したり、ほとんど誰も見破れないような変装術を駆使したり、棒術の達人だったり果ては謎の東洋武術「バリツ」をマスターしていたりします。

また、そんなホームズにいつも振り回されっぱなしの、語り手ワトソンもなかなか面白いキャラです。こちらは、ホームズと違って常識人で、人間味あふれる男です。

昨今、ライトノベル界を中心に、キャラクターの魅力で勝負する小説が増えていますが、私はシャーロック・ホームズシリーズこそ、世界最初のキャラクター小説だったのではないかと密かに思っています(いやあ、モルグ街の殺人が最初だという意見もあるようですが……読んでないので(汗)。すいません)。

才覚に溢れた有能な人物に、ごく普通の語り手が振り回されるって、最近のライトノベルでもよくある展開だと思いませんか ?

 

みんなおいでよ、冒険の物語!

最近の映画で有名になった橋また、シャーロック・ホームズというと謎解きミステリですから「難しいんでしょ?」とお思いの方もいるかもしれません。しかし実のところ、そんなことはないのです。

 

確かに、犯罪者たちの駆使するトリックはどれもこれも難解なものばかり。しかし、それが小説の興を削ぐようなことはありません。


なぜなら、私が思うに、シャーロック・ホームズはミステリである以前に冒険小説だからです。ミステリだからと肩肘を張らず、ホームズとワトソンの大冒険だと思って気楽に読めば、これ以上面白い小説はそうそうありません。

と、こんな感じにとても面白い小説だったので、私は一年足らずで全シリーズを読破してしまいました。

 

未だに世界が広がり続ける、文字通りの不朽の名作

ですが、シャーロック・ホームズの物語は、それだけでは終わりません。


コナン・ドイルによってシャーロック・ホームズが書かれたのは、おおむね1900年前後。コナン・ドイルは1930年に亡くなっているので、既にとっくに、著作権は切れています。
そこで、世界中のシャーロック・ホームズのファンの作家が、その作家オリジナルのシャーロック・ホームズを書いているのです。


こうしたシャーロック・ホームズの二次創作は、コナン・ドイルの書いた「正典」に対して「パスティーシュ」と呼ばれ、今も世界中のシャーロック・ホームズファン(シャーロッキアン、といいます)を楽しませています。

 

私は今でも、図書館や書店でホームズパスティーシュを見つけるたびに手に取ります。そこに描かれたホームズたちは、時に正典とひと味もふた味も違っていたりしますが、それもまた面白く、文字通り私は童心に返ったような気持ちになるのです。