Lupin01「ルパンと言っても、アルセーヌの方ですよ」……日本でアルセーヌ・ルパンを語るには、この一言を必ず付け加えなければならないのが、なんとも歯がゆいところです。いえ「三世」の方もあれはあれで面白いんですけど、全く別の作品ですからね……。
というわけで、このたびはアルセーヌ・ルパン シリーズ最終作「ルパン、最後の恋」をご紹介します。


 

怪盗紳士――昔日の思い出

旧サイトを立ち上げて間もない頃に書いた書評では、私の初めての活字体験として「シャーロック・ホームズ」を取り上げました。その中でちらりと「アルセーヌ・ルパンにも熱中した」と書いた通り、私がルパンシリーズに熱中したのは小学校高学年ぐらいの頃です。


ただ、それゆえにもうずいぶん前のことになるので、作品の内容を細かくは覚えていません。それでも、クールな英国紳士とはまたひと味違った、ルパンの情熱的な人柄には、とても魅せられた覚えがあります。少年時代の頃は、女の子をルパンがしたみたいに上手く扱えないことに、ずいぶん悔しい思いをしたものです(苦笑)。

 

未完ではあるけれど……

それで、今回取り上げる「ルパン、最後の恋」なのですが、この作品は作者が十分な手直し(推敲)をする前に病気に倒れ、未完となり、その後長らくお蔵入りになっていた作品です。著作権を持つ作者の息子さんは、未完を理由に出版を拒んでいたのですが、その息子さんが亡くなり、孫娘が遺品を整理する中でこの原稿を見つけたとの話です。内容は未完成ながら意義深く、ちょうど作者の著作権が切れることもあるということで、出版する運びとなったとのことでした。

 

それで、肝心の書評なのですが、読んでみて感じるのは、確かにこの作品は未完だということでした。解説によると、なんでも作者のモーリス・ルブラン(余談ですが、毛利蘭の名前のモデルになった人ですね)は推敲を重ねて作品を良くしていく執筆スタイルの人だったらしく、最初は素っ気ない感じで骨組みのような文章を書いてから、推敲を重ねるうちに肉付けしていき、話を膨らませ、文を豊かにしていくという手法をとっていたのだそうです(私に言わせれば、よくそんなことできるなという感じですが……)。


OLYMPUS DIGITAL CAMERA         で、この作品の原稿は一切の修正がなされないままですので、唐突な展開や文章の素っ気なさなどがそのまま残っており、その辺の背景事情を考えないで読むと、小説として楽しむにはかなり無理がある内容となっております。


 

ルパンを愛し続けた、ファン達への贈り物

OLYMPUS DIGITAL CAMERA         しかし、だからといって、この本が出版に値しないというわけではありません。
内容を見てみると、幾多の恋と冒険を経て、ルパンが最後にたどり着いた心境に、往年のファン(と言っては大げさですが)としては感慨深いものがあります。



たとえば、作中でルパンは、貧民街のまともに教育を受けられない子供たちに、無報酬で様々なことを教え込みます。さらには、そのうちの特に優秀な二人を、助手として篤く登用したりさえするのです。また、ルパンシリーズお約束の、若い女性との恋も、やはり叶わないのか、いや今度こそ叶うのかとハラハラさせられます。その結末には、子供たちの一件共々、ルパンが見せる新しい一面に、ファンとしては驚かされると共に「でもそういえば、ルパンって前からこんなだった気もする」と、納得させられ、またこの怪盗紳士への愛着を一つ確かなものにするのです。

 

かつてアルセーヌ・ルパンに魅せられたという人には、一読をおすすめできると思います。