640px-Japanese_Embassy_in_Seoul_and_watched_from_behind_a_bronze_statue_of_comfort_women慰安婦の少女像を巡る問題で、日韓関係が揺れています。

 

発端は、韓国の市民団体が、釜山の日本総領事館の目の前に、従軍慰安婦を象徴する少女像を設置したことです。

 

ソウルの日本大使館前にも以前から同様の像があり問題になっていましたが、これに続く像の設置に、日本からは保守勢力を中心に批判が高まりました。

 

特に、慰安婦問題に関する日韓合意で、韓国側に少女像問題を解決するよう求める文言(この記事では便宜上これを「少女像条項」と称します)が含まれていたにもかかわらず、今回の事態となったことに、怒りが噴出します。

 

これを受けて、日本政府は大使の一時帰国、通貨スワップ協定に関する協議の中断など、やや強めの対抗措置をとりました。

 

日韓関係に緊張が高まり、おそらく、改善の兆しが見えた日韓関係が再び悪化するきっかけとなりそうな雲行きです。

 

この記事で示す、私の考えは次の二つです。

 

1:状況を考えると日本政府の対抗措置そのものはやむを得ない。しかし、時期が非常に悪い。韓国の大統領選が終わるのを待つべきではなかったか

 

2:少女像条項の存在によって、全体としては日本に非常に有利な内容だったはずの日韓合意が、崩壊の危機に瀕している。そもそも、日韓合意に少女像条項を盛り込んだこと自体が間違いではなかったか。

 

では、順番に論じていきたいと思います。

 

 

対抗措置の発動は、韓国の大統領選が終わるまで待つべきではなかったか

私は必ずしも全ての少女像が悪いとは思いません。少女像の設置を通して韓国人が言いたいことは、一定程度の理があると思います。

 

とはいえ、日本の在外公館の目の前に設置するのは、いくらなんでもまずいです。あれは外交儀礼を侵害するものであり、度が過ぎています。(外交関係について基本的なことを定めた)ウィーン条約に反しているという一部からの批判は、私もまあその通りだろうと思います。

 

よって、今回の日本政府がとったやや強めの対抗措置も、それそのものはやむを得ないかなあ、と思います。

 

ですが、対抗措置の発動がこの時期になったことに関しては、大いに疑問を持たざるを得ません。

 

知っての通り、韓国の政治はいま、非常に混乱しています。大統領が弾劾されて職務停止となり、権限を代行する人物が指名されてはいるものの、選挙で選ばれたわけではないので、強力な政治的決断を行えない状況です。

 

少女像の撤去には韓国国民の強い反発が予想されるため、これは「強力な政治的決断」に含まれるものと考えられます。

 

よって、私としては現在の日本政府は韓国政府に対し「できもしないことを要求している」と考えざるを得ません。そんなことは無意味というものです。

 

無意味であるばかりか、今回の場合は有害ですらあります。近いうちに韓国で大統領選が行われる可能性が高い今、あのような強い対抗措置を打ち出したら、韓国国民の反日感情は高まります。これは、対日強硬派の大統領の誕生を後押しするようなものです。

 

北朝鮮や中国の問題もあり、日韓関係の強化が急務となる中、そんなことをして一体何になるのでしょう。日本の対抗措置がこのタイミングになったことは、長期的視野を欠いているように思われます。

 

以上のような理由から、私は、日本政府の対抗措置は、韓国が大統領選を終え、政治的に安定するまで待つべきだったと考えています。

 

確かに、外交ではタイミングが大事な部分はあります。相手が何かしてきたら、対抗措置は間を置かずに打ち出す。基本的には、それが外交の常識だというのは私も認めます。時間が開くと「なんで今さら」という話になるからです。

 

とはいえ、現在の韓国の状況を考えれば、今回は例外的な状況だと考えていいのではないでしょうか。大統領選が終わるまで、厳しい措置は待っても良かったように思えます。少女像の撤去が実現する確率も、そっちの方が高かったでしょう。

 

また、付け加えておきたいことがあります。「敵が弱っているところを狙って叩く」というのは、相手が敵ならそれもアリなのかもしれません……が、韓国は敵ではありません。

 

上述した通り、北朝鮮や中国の問題もあり、日本は「これ以上敵を増やしてどうすんの」という状況です。日韓関係の強化は急務となっています。

 

また、韓国よりちょっとだけ上かな程度の国力を振りかざすことによって、日本が韓国を一方的に圧倒できる、支配できると考えている人がいるなら、そのような非現実的な妄想は直ちに捨て去るべきです。

 

韓国が遅れた前近代的な国だった時代はとっくの昔に終わりました。であれば、日本と韓国の関係は、江戸時代以前がそうであったように、対等なものになるしかないのです。

 

自分は外交官でも政治家でもないから、無責任な発言をしても許される、などと考えている人が多すぎるように思います。

 

実際には、無責任で野蛮な発言をするたびに、日本の品格は傷ついています。日本を本当に愛しているというなら、日本人の品格に相応しい発言をしていただきたいですね。

 

日本の品格を傷つける日本人に、愛国者を名乗る資格はありません。

 

少女像条項は日韓合意の欠陥ではなかったか

また、今回の流れを受けて、私は、やや結果論気味ではありますが「そもそも日韓合意に少女像に関する条項を盛り込んだこと自体が間違いではなかったか」という考えに至っています。

 

日韓合意は「慰安婦問題の完全な解決」をうたうなど、全体としてみれば、非常に日本に有利な内容でした。仮に少女像条項がなかったとしても、です。

 

また、少女像問題の解決に当たっては、ウィーン条約というそれなりに強力な根拠もあるので、日韓合意にわざわざ盛り込む必要性は高くなかったように思われます。

 

第一に、ウィーン条約違反だという線で時間をかけて押していけば、韓国が折れる可能性は十分にあったように思います。

 

加えて、ウィーン条約で押していれば、韓国政府が国民に「国際条約に違反しているから撤去した。日本の圧力を受けたものではない」と言い訳することができたはずです。

 

そのように「韓国政府の面子を立てる」配慮をするという意味でも「少女像条項を日韓合意に盛り込まず、ウィーン条約違反の線で押していく」というアプローチの方が優れていたように思えます。

 

一方で、少女像条項を盛り込んだことで、大きな副作用が発生することになってしまいました。

 

そもそも少女像は、韓国政府が設置しているものではありません。あれの設置主体は市民団体です。

 

なので、結果的に少女像条項は「(日本に非常に有利な内容の)日韓合意全体をぶち壊すパワーを(閉鎖的で外からの声に聞く耳を持たない)市民団体と(やたら熱しやすいことに定評がある)韓国世論に与えてしまった」ことになります。

 

現実に、少女像問題をきっかけに、韓国では日韓合意破棄の動きが出ていますし、日本でも保守強硬派の一部にそういう声があるようです。

 

市民団体が暴走してバカな真似をしたという、たったそれだけのことがきっかけになって、日本に有利な内容だった日韓合意がいま、丸ごとぶち壊されようとしているのです。

 

少女像条項が日韓合意に含まれていなかったとしても、今回の設置で日韓関係は変わらず悪化していたでしょうが、日韓合意全体が危機に瀕するところまではいかなかった可能性が高い。

 

こうなると、そもそも少女像条項は「一市民団体に、日韓合意をぶち壊すパワーを与えた」という点で、外交上の愚策だったと判断せざるを得ないのではないでしょうか。

 

また「(日韓合意で日本側に定められた)十億円を払ったのに!」という声もよく聞かれますが、合意の内容の歴史的・外交的重要性を考えると、十億円なんて安いもんです。気前良くくれてやればいいのです。

 

むしろ(現実にそういう声も出ているようですが)韓国側から「だったら十億円返すよ」と言われることの方が、日本にとってはよほど怖いことです。それは、(何度でも繰り返しますが、日本に有利な内容の)日韓合意の完全な崩壊を意味するからです。

 

最後に。一部報道では、安倍総理は少女像問題にやたらとご執心だと言われています。

 

しかし安倍総理には、日韓合意は、全体としてみれば日本にかなり有利な内容だということを思い起こしていただきたいものです。少女像問題だけを理由にぶち壊してしまうには、あの合意はあまりにも惜しい。日韓合意は、安倍政権の数少ない「目に見える成果」だったはずなのです。

 

それを忘れて感情的になり、あくまで少女像問題にこだわるとするなら、日本の指導者としての資質に非常に問題がある、と言わざるを得ないでしょう。