最近、自動車業界が燃費の不正問題で揺れています。

 

報道によると、どうやら三菱自動車は、ライバル企業との燃費向上技術の競争で負けてしまったので、不正に手を染めた、ということのようです。

 

「技術開発競争に敗れた企業・国家はどうなるのか?」というのは、以前から私が頭の中で考えてきたテーマの一つです。一連の不正問題は、考えをまとめて記事にする良い機会だと思えたので、ちょっと書いてみることにします。

 

 

マルクス経済学の基本的な考え方

唐突ですが、私は、平均的な日本人と比べると、マルクス主義にかなり強い関心を持っています。

 

マルクス主義・マルクス経済学が全面的に正しいと言えるかというとそれは確かに微妙なところですが、しかしそれでも、もっと多くの人がこの分野に関心を持ってくれれば、世の中はかなり良くなるんじゃないか、ぐらいには思っています。

 

で、そのマルクス経済学には「搾取」という考え方があります。

 

これは要するに、儲けを出している企業は、本来は従業員に払うべきだった給料を十分に払っていないんじゃないか(ピンハネしているんじゃないか)という考え方です。

 

なぜかと言えば、

 

……もし従業員の労働と企業から支払われる給料が本当に「等価交換(フェアなトレード)」であるならば、企業が儲けを出せるはずはない(プラスマイナスゼロになるはずではないか)。ではなぜ企業が儲けを出すことが出来ているのか。それは、企業が有利な地位を利用して、従業員に本来払うべき正当な額の報酬を払っていないからだ……

 

ものすごく大雑把に言うと、これがマルクス主義の基本的な考え方であり、この「正当な額の報酬を払っていないのに従業員を働かせる」ことを「搾取」と呼びます。

 

で、マルクス主義を支持する人たちは「資本主義は搾取を率先して行う不正義な体制だ!」と批判します。

 

一方、資本主義を支持する人たちは「資本主義における企業と従業員の関係は等価交換(厳密には「限界効用」とかもう少し難しい考え方が出てきますが)であり、不正義では断じてない!」と反論します。

 

ただ、資本主義を支持する人たちの側も、言っていることは「資本主義は搾取なんかしていない」であって「搾取したって別にいいじゃないか」とまでは言っていません。「搾取=悪」という点については、両者とも一致しているわけです。

 

「搾取」を巡る、このような論争があることを踏まえた上で、次に進みます。

 

 

資本主義における技術開発の重要性

先ほどマルクス主義者は「資本主義は搾取を率先して行う」と批判している書きましたが、実はマルクス主義者の一部には(もちろん、マルクス主義者にも色々な人がいますが、そのうちの一部は)「搾取をせずに資本主義を続ける方法が一つだけある」と言う人もいます。

 

その方法とは「技術開発競争に勝つこと」です。

 

他のライバル企業よりも優れた技術を持っていれば、従業員から搾取する必要はありません。優れた技術は、他社よりも優れた製品や、他社と同等の性能を持ちながら値段の安い製品、などを可能にします(つまり、優れた技術は、搾取することなく「価値」を生み出すことができます)。こうした「技術的な優位」があれば、従業員にちゃんとした報酬を払った上で、企業も儲けを出すことができるだろう、というわけです。

 

ただ、このように考えるマルクス主義者も、もちろん「技術開発競争に敗れた企業が利益を出すためには、搾取に走らざるを得ない」と主張します。

 

ところで、資本主義の総本山であるアメリカ合衆国は、世界で最も資本主義の原則に忠実かつ熱心であると同時に、世界で最も技術開発に力を入れている国でもあります。また、技術開発の「果実」である知的財産権(いわゆる特許権や著作権)の保護に関し、偏執的なまでに熱を上げているのもアメリカです。

 

こうしたことから(個人的な考えですが)、私は、アメリカ(のエリートたち)が「資本主義における技術開発の重要性」を正しく理解しているのではないか、と思います。

 

「技術開発競争に敗れた資本主義は、搾取に走らざるを得ない。しかし、搾取は悪だ。だとすれば、資本主義を続けるために、やるべきことは一つ……技術開発競争に勝つことだ」

 

と、このように、アメリカのエリートたちが認識しているように思えてならないのです。そして、それは資本主義者としては非常に正しい認識であろう、と私は思います。

 

 

相次ぐ「不正」は「搾取」ではないのか? ~ 技術開発競争に破れた企業・国家の末路 ~

さて、ここで話は日本にやってきます。

 

たとえば、少し前、日本では「ブラック企業問題」というのが盛んに取り上げられ、今も現在進行形でこの問題は続いています。

 

「ブラック企業」の多くに共通するのは、その製品やサービスが「安さ」を売りにするものであったことです。そしてその「安さ」を可能にしていたのは、従業員からの搾取(労働に対して正当な報酬を払わなかったこと)でした。

 

もし、こうした企業が優れた技術……たとえば「他社よりも低いコストで、他社と同じ製品やサービスを提供できる技術」……を持っていたとしたら、従業員から搾取する必要は無かった=ブラック化することはなかったでしょう。

 

燃費不正問題は、あれは従業員に対する搾取ではありませんでしたが、この場合は消費者に対する搾取と言えます。燃費向上競争に敗れた三菱は、消費者を騙し、搾取する(製品を不当に高く売りつける)ことによってしか、利益を上げることができなかったわけです(似たような問題に「食品の産地偽装問題」がありますね)。

 

このように、技術開発競争に敗れた企業は、従業員もしくは消費者のどちらかを搾取することによってしか、利益を上げられません。企業の至上命題は利益を上げることですから、言い換えると、技術開発競争に敗れた企業は必ずと言っていいほど搾取に走る、と言って差し支えないように思えます。

 

……これは蛇足気味ですが、私は最近、日本は「一億の人口を支えられるだけの、十分な技術力を持っているだろうか?」とたびたび不安になります。

 

確かに、テレビなどで盛んに取り上げられる通り、日本は色々な分野で世界的に優れた技術を有しています。

 

しかし、果たしてそれは「一億の人口を支える」のに十分なものでしょうか? たとえば、テレビで「この町工場には、工作機械では出せない高い精度で金属を研磨することのできる職人さんがいます!」などと紹介されるたび、私は「こういう町工場の取引が、日本のGDPに占める割合はどれぐらいだろう?」と考えてしまいます。

 

また、少し昔の話にはなりますが、日本とアメリカが戦闘機の共同開発をすることになった時、アメリカは日本の技術力を分析して「日本の航空機製造技術は、部分的には優れているが、総合的にはアメリカに及ばない」と結論したそうです。

 

私は、この話を思い出す度に「あれはアメリカ人の強がりではなく、的を射た洞察だったのではないか?」とか「部分的に優れた技術を有しているだけで、果たして一億の人口を養えるのだろうか?」とか考えてしまいます。

 

確かに、現在、たとえば日本の自動車産業、特にハイブリッド車は素晴らしいです。技術的に優れているだけでなく、自動車産業は裾野が広くて波及効果も大きいので「一億の人口を養う」だけのポテンシャルもあると言えるでしょう。

 

……しかし、海の向こうでは、あのAppleが自動車産業に参入するという話も聞こえてきますし、Googleは自動運転車の開発にものすごく力を入れています。

 

ですから、日本の自動車産業といえど、先行きは決して楽観できません……そして、もし、日本が自動車の分野でも技術的に遅れを取ってしまったら、波及効果が大きいだけに、非常に恐ろしい未来が待っているのではないか、と思えてならないのです。

 

日本の自動車業界が、技術開発で破れたために、搾取に向かってアクセル全開で突っ込んでいったら、と思うと……

 

今回の燃費不正問題は、そんな連想を働かせてしまうような出来事でした。

 

日本の自動車産業が技術で破れる可能性そのものは、決して高いとは思いませんが……しかし、万が一にも破れた場合の「ヤバさ」は半端ではない、と思うのです。

 

技術開発という側面から見る「資本主義の未来」

最後に、技術開発という側面から、資本主義の未来について想像を巡らせて、この記事を締めたいと思います。

 

かつてマルクスは「資本主義は、労働者を搾取することにより無理な負担を強いる。そんな無理がいつまでも続くわけがないから、いつか労働者による革命が起こって、資本主義は終わりを迎えるだろう」といったようなことを述べました。

 

私は資本主義の終わりに関するこのようなシナリオを必ずしも否定するわけではありませんが、今のところは、別のシナリオもあり得ると考えています。

 

既に見てきたように、搾取をせずに資本主義を続けるには、技術開発を永遠に続けるしかありません。

 

しかし、何事も永遠に続くことなどあり得ません。いつか、技術の進歩が頭打ちになった時(あるいは、技術の進歩が、人口を養うだけの十分なスピードを維持できなくなった時)、「資本主義=搾取」の図式が今度こそ成立し「資本主義=悪」だと多くの人々が考えるようになって、それを終わらせようとする……そんな未来もあり得るだろう、と考えています。

 

「技術の進歩が頭打ちになる」の具体的なシナリオとしては、私は「テロ対策」を考えています。

 

たとえば、この十五年ほどの間に「テロリストの武器庫」には「インターネット」が新たに加わりました。その効果は「イスラム国」を見れば明らかです。

 

また、おそらく、これから先の十年の間に「テロリストの武器庫」には「ドローン」が加わることになり、その次はもしかしたら「自動運転車」が続くかもしれません。

 

そんな調子で、技術が進歩すればするほど「テロリストの武器庫」もまた、充実していくことになるでしょう。

 

そうして、テロの脅威が時と共に高まっていった結果、いつか誰かが「このままでは世界がテロリストの天国になってしまう! 技術開発を法律で制限しよう!」という声を上げるのではないでしょうか。

 

そして、その声が多数派になった時……資本主義は今度こそ、終焉を迎えるのかもしれません。

 

……搾取してもいいから、資本主義を続ける方が大事だ、という人もいるかもしれないので、その場合は、もしかしたらマルクスの言ったことが本当になって、革命が起きる、ということになるのかもしれませんが。