moonlight近代……人が時には誇らしく、時として怨嗟を込めて呼ぶその時代は、様々なものを人の世に送り出した。

 

その一つが、飲み会である。

 

そしてその飲み会の副産物が……終電に乗り遅れ、ため息をつきながら、歩いて帰る人々である。

 

 

※この文章はほぼだいたいおおむねノンフィクションです

 

ブリーフィング

というわけで、諸君、状況を確認しよう。

 

ある日、私は終電に乗り遅れた。なつかしい面々と久しぶりに飲んでいて、つい時間を忘れてしまったのだ。電車がないことに気づいた時には、既に解散した後だった。まあ、楽しい飲み会だったので、後悔はしていない。こうしてブログのネタにもできていることだし。

 

時刻は、まあ住所を特定されるのも嫌なので、大雑把に午前一時とする。携帯で地図を確認してみると、自宅までは直線距離でおおよそ10km、道のりでは12kmほどとある。10分で1km歩けると仮定すると、120分、つまり二時間歩けば帰宅できる。一方、タクシーを使えば30分もかからないであろう。

 

タクシー……深夜割り増しは高くつくとはいえ、常識的な選択肢だ。今から徒歩で帰宅すると、どう計算しても午前3時は過ぎる。私は屈強……かどうかはわからないが、とにかく若い男だから、安全面はそう心配ないだろう。が、道程の半分ほどは知らない道であり、また電車の車窓から見た記憶では、けっこうな田舎道もあった……ちょっとした冒険になるであろうことは、容易に想像がついた。

 

しかし、良い面もあった。まず、体調が万全であること。普段は酒を飲まない自分としては、まあまあ飲んだ方だったが、足元はしっかりしている。もう一つは、好天であったこと。夜空にはやや雲が出ていたが、雨が降りそうな気配はなく、星明かりはそこそこある。割と肌寒い日ではあったが、寒さには強い方だ。最後の有利な点としては、翌日が休みで、まあちょっと何かあったとしても大丈夫なことだ。


風邪を引くぐらいは覚悟しなければならないかと思ったが……やってみる価値はあると判断した。タクシー代を節約できるという以上に、面白そうだと判断したからだ。

 

 

秋の夜長はひたすら歩こう

そして、私は出発した。繁華街のオネーチャンが声をかけてきて、思わず頬が緩むが、いやいやさすがに始発まで一人で楽しむというわけにもいかない。

しばらく行くと繁華街を抜けて、住宅地へと入った。午前一時ではあるものの、近所の住人であろう人たちをちらほら見かけたりした。びっくりしたのは、そんな時間にジョギングをしているおっさんがいたことだ。世の中は広い……。

 

そうして歩いていくと、24時間営業のスーパーを見かけた。これ幸いと、私は闇夜の中で煌々と輝く電光の中で、携帯を取り出して道のりを確認する。そこで私は、不逞の輩は相手が携帯などに夢中になっている隙を狙うと聞いたことがあるからと、道順の確認は営業中のスーパーやコンビニの近くでやろう、と決めた。

 

なおも歩いていくと、住宅地の一部がとぎれ、畑がちらほら見えてくるようになってきた。当たり前だが、畑の中には街灯がなく、文字通りの真っ暗闇だ。そこで前方を見ると、かすんでしまうぐらい先まで続いているまっすぐな道路の行く手には、何やら雑木林らしき風景が……ううむ。

 

やがて、住宅地は私の後方へと消えていった。畑を抜けると、そこはもう見上げんばかりの木々の世界だ。右を見ても左を見ても、枝葉が星明かりを遮って、暗く静かにたたずんでいるだけである。


night_street住宅街は街灯も多いし、時として、まだ就寝前なのか、あるいは防犯のためか、明かりが見受けられる家もあった。そのため割と明るかったのだが、もちろん雑木林に明かりはない。

 

最初は一定の距離を置いて、道路の左右両側に向かい合わせに立っていた街灯も、そのうち一本ずつ、左右交互に置かれるようになってきて、光量は大きく落ちる。しかし、私が心配したように、街灯の明かりが完全に途切れてしまうことはついになかった。いかに国内最大を誇る関東平野の一角とはいえ、やはり日本というのはすさまじい国だ。海外ではこんなところにもちゃんと街灯があるというのはなかなかないであろう。

 

 

ある夜、森の中、出会ったのは……?

ただ、そんな寂しい道を行く中でも、驚いたことがあった。時々、林が途切れ、開けた夜空の下に大きな建物が現れるのだ。建物はどれも新しく、落ち着いた装飾で、しっかりした堅実な造りに見えた。その保守的で無難な外観から、公共施設であろうということはすぐに見当がついたが、こんなところに何が、というのが気になって、私は近づいて看板を確かめてみた。

 

すると、老人ホームなのである。なるほど、と最初は思っただけだったが、全く同じ体験を二回、三回と繰り返すと「なるほど」も「うへえ……」に変わる。中にはデイサービスなどもあったが、高齢者福祉施設には変わりない。結局、ほんの一時間もしないうちに、4~5回ほどこうした施設に遭遇した。日本にはこれほど老人が多いのか、と思わぬところで気が滅入ったりした。

 

が、雑木林の中をさらに行くと、そうした施設もついに見かけなくなる。時刻は午前二時ほどだったが、もうずいぶん長いこと歩行者を見かけていなかった。自転車にもほとんど遭遇せず、たまにヘッドライトを光らせた自動車が、スピードを出して通り過ぎていくだけだった。

 

dark_forest私はだんだん不安になってきて、ついさっき決めたルールもやぶって、暗い中で道順を再確認したりした。自宅まではまだ5km以上あった。半分も来ていないし、予定より少し遅れているような気もする。

 

1時間ほど歩き詰めで、少しではあるが疲れてきてもいた。特に、痛むというほどではなかったものの、腰に違和感が出始めている。暗夜歩行路などと偉そうなタイトルをつけておきながら、私は肥満体型であるので、背骨への負担が心配だ。出発した時より、寒さも一段と増している。

 

こんなことで、無事に自宅へと帰りつけるのだろうか? 私は、周囲に広がる雑木林や、時折現れる畑を見ながら、ここで寒さをしのぎながら一夜を明かしたらどうかなあとまで考え始めたが、さすがにそれはどう考えてもあり得ない発想なのでやめておく。しかし、本当にやばくなったら携帯で助けを呼ぶことになるな、とは考えた。

 

さあ、死ぬことはないであろうが、でもそれなりにヤバいという、中途半端なピンチに陥った私。無事に家に帰り着けるのであろうか? 暗夜歩行路の結末は?

 

それほど気にもならない先の展開は、後編へと続く!

 

暗夜歩行路(後編)はこちら