皆さん「対戦車兵器」と言われてどんなものをイメージするでしょうか。やはり対戦車ミサイルでしょうか。それともバズーカのようなロケットでしょうか。あるいは無反動砲でしょうか。
実は「対戦車兵器」と言っても色々あり、種類に応じた使い方というものがあります。それを間違えると大変なことになるのです……昔の私のように(ゲームの中の話ですが)。
というわけで、今回は一口に「対戦車兵器」と言っても色々あるという話をしようと思います。
今回は二種類を取り上げてみる
昔の対戦車兵器には「対戦車ライフル」とか「対戦車砲」とかいうものがありましたが、第二次世界大戦が終わると廃れました(画像は対戦車砲の一種)。
現在では対戦車砲は姿を消していますし、最新の戦車に通用するような対戦車ライフル(対物ライフル)はありません。
現代の対戦車兵器を比較するために、今回は米軍などが採用している無反動砲「AT4」と対戦車ミサイル「ジャベリン」を取り上げてみたいと思います。ソースは……やや気が引けますが、読者の方もすぐ参照できることですし、Wikipediaの該当ページを用いたいと思います(両方とも2014/11/29閲覧)。
昔々あるところに、AT4しか装備していない歩兵たちがいた……
で、その方が分かりやすいと思うので今回は私の(ゲーム内の)体験談をお話ししようと思います。
私がやっていたゲームは「Steel Panther Main Battle Tank」略して「SPMBT」あるいは(Windows上で動くゲームだからか)「winSPMBT」と呼ばれるゲームでした。
内容は要するに、現代戦をテーマにしたターン制のゲームです。歩兵は1分隊(だいたい8名1組)が1ユニット、戦車は1両が1ユニットと、スケールの細かさが特徴でした(ちなみに1ヘックスは50メートル)。
細かいのはスケールだけではなく、ルールも緻密で、無誘導兵器は遠くから撃つと命中率が激減するとか、戦車のどこに対戦車兵器が着弾したかによって撃破の確率が変わる(酷い時は着弾したのに無傷)とか、かなーりマニアックなゲームでした。
で、そんなゲームで私はアメリカ軍vsロシア軍をやっていたわけです。私はアメリカ軍を担当し、ロシア軍はAI。
私はアメリカ軍歩兵に指示を出し、目標の市街地に突入させました。すると、曲がり角からロシア軍の戦車が現れます。迂闊にも、私は歩兵に戦車を同行させることを忘れていました。
とはいえ、私は慌てませんでした。各歩兵分隊はしっかりと対戦車兵器「AT4」を装備していたからです。
私は落ち着いて歩兵分隊に戦車への攻撃を指示します。歩兵分隊はAT4を使用してロシア軍戦車を攻撃。
しかし、期待した着弾音は聞こえてきませんでした。どうやら失中してしまったようです。
ここで私は思い出しました。そういえばAT4は無誘導兵器だった、と。つまり、AT4の弾頭は火薬の力で発射機から飛び出すと、そのまま放物線を描いて飛んでいくだけで、ミサイルとは違って狙った相手に命中するように軌道を修正したりはできない、ということです。
現に、AT4の有効射程は300mとされています。さらに、これが無誘導兵器であるとすると、有効射程ぎりぎりの300mで撃ったとしたら命中はあまり期待できません。
「有効射程ぎりぎりで撃たれた無誘導兵器はあまり命中が望めない」というのはよくある話で、たとえば歩兵の通常装備であるライフルなどは、有効射程300mから400mとされますが、特殊部隊の精鋭ならいざしらず、一般歩兵が、混沌とした実際の戦場の中で、射撃して十分な命中率を期待できるのはおおよそ100m以内だ、などとも言われます。
……話をゲームに戻しましょう。そういうわけですから、私はAT4が外れてしまったのは遠距離から撃ったせいだと考えました。歩兵と戦車の距離は5ヘックスほど……現実換算で250mほど離れていたのです。いかに戦車が大きくとも、無誘導兵器でこの距離では外れるのも無理はありません。
と思い、私は歩兵に指示を出して、建物を利用して戦車に50mの距離まで接近させました。これなら十分に命中が望めます。
満を持して再度AT4による攻撃。今度は命中……したのですが「カキーン」とむなしい効果音……どうやらAT4の弾頭はあっけなく、戦車の装甲に弾かれてしまったようです。
直後に、戦車からの反撃。「ドカーン(戦車砲の音)! ガガガガガガガガガッ(機銃の音)!」圧倒的な火力の前に、歩兵分隊は壊滅……
私はその光景を見て「た、対戦車兵器を、ちゃんと装備していたのに……」と唖然となったのでした。
当時の私は知らなかったのですが、実はAT4の装甲貫通力は、それほど大したことがなかったのです。Wikipediaにもはっきりと「現用戦車の正面装甲には有効ではないと思われる」と書いてありました……。
対戦車兵器にも色々ある
長々とした文章にしてしまいましたが、重要なポイントは二つです。
・AT-4は無誘導兵器であり、かなり近づかないと命中が望めない
・AT-4の装甲貫通力は大したことがない
これを受けて、私は戦術を変更しました。
対戦車ミサイル「ジャベリン」を装備した対戦車兵を随伴させることにしたのです。
ジャベリンの特徴はこんな感じです。
・有効射程は2500m(誘導機能つき)
・装甲貫通力はAT4より上。さらに、上空から着弾することにより比較的薄い戦車の上面装甲を攻撃できる「トップアタックモード」を持つので、戦車の撃破力は数値以上に上
つまり、遠距離からでも高い命中率が期待でき、命中すれば高い確率で戦車を撃破できると、非常に強力な対戦車兵器なわけです。
しかし、そんなジャベリンにも欠点がないわけではありません。
まず第一に、その重量。AT4が6.7kgなのに対し、ジャベリンは22.3kg。実に三倍を超えます。いかに屈強な兵士であっても、20kgを越えるミサイルを背負って戦場を機敏に動き回るのは難しい(行軍ぐらいならいざ知らず、走り回るとなると厳しい)。
そういうわけで、ゲーム内でもジャベリンを装備した兵士の機動力は非常に限られたものになっていました。
さらに、戦場では直接関係はありませんが、その価格も問題です。ジャベリン一基あたりの価格は15万ドル(ミサイル1発の値段は4万ドル)。使い捨てのAT4は1500ドルなので、相当な価格差があります。
これを反映して、ゲーム内でも、ジャベリンを大量に持って行くことはできなくなっています。米軍全体の配備数としても、AT4の30万基に対して、ジャベリンは3000基(2万発)と大きな開きがあります。
以上の利点・欠点を総合して考えて、私は「戦場の広い範囲を見渡せる高所に、ジャベリンを1~2基配置する」という作戦をとることにしました。また、高所から見通せない市街地に侵攻する際は、やはり歩兵に戦車を同行させるべきだという結論に達しました。
これにより、戦車には戦車で対抗することを基本としつつも、不意を打って開闢地に現れた敵戦車はジャベリンが処理する、ということで勝ちパターンとして安定したわけです。
何回か戦闘を繰り返すと、ジャベリンは、敵戦車を視界に捉えることさえできれば、ほぼ確実に命中し、確実に戦車を撃破できる、非常に有効な兵器であると分かりました。
一方のAT4ですが、ほぼ全ての歩兵分隊が装備している一方、やはり現用戦車に対抗するには無理があるようです。不意に現れた装甲車に対する自衛用の兵器、あるいはいっそ建物の破壊用の兵器……ぐらいに思っておくのが良さそうでした。
まとめ:細かいところまで知っておくのも大事か
そういうわけで、昔の私は「対戦車兵器」をひとくくりにしすぎていたんだよ、という恥ずかしい体験談でした。
兵器はそれぞれ固有の設計思想に基づいて設計され、それによって運用の仕方も大きく異なります。プレイヤーはそれを理解して、使いこなさなければならないのです……とりわけマニアックなゲームにおいては。
まあそんなマニアックなゲームでしか使わない知識なので、今回この記事を「ゲームでも使える軍事~」シリーズに含めるかはけっこう悩んだりもしたのですが(「その他の趣味」にしようかと思った)……まあそれぐらいいいか。