今回は、敵の弱点を攻撃するための「迂回・側面攻撃」について取り上げたいと思います……ちなみに、画像に描かれているのは「鵜飼い」です。
*本稿で言う「迂回」は「戦術と指揮(松村劭・著)」によると「包囲」と呼んだ方が適切です。が、ここではそこまで専門的なことは考えず、門外漢の方へのわかりやすさを重視して「包囲」のことを「迂回」と表現することにしました。
正面はカタイよ
古来より、軍隊というのは正面が強いと相場が決まっています。
ギリシャのファランクス(密集陣形)なんかはまさにその好例でして、左手に持った盾で自分の左半身と左隣の仲間の右半身を守ることにより、正面に対しては鉄壁の防御を誇りました。
似たような特徴は、現代の主力戦車にも見られます。実は、戦車の装甲は全方位に対して均等な厚さを持っているわけではなく、正面が一番厚くなっており、つまり戦車は、正面に対して一番頑丈に出来ているのです。
どうしてこのようなことが起きるかというのは、単純に可能性の問題です。
「自分が敵に向かっていく時、敵にどこを向けるだろうか?」と考えれば、まさかカニ歩きで敵に向かっていくバカはいないので「正面」ということになります。
また「敵が来るとしたら、どの方向から来る可能性が最も高いだろうか?」と考えると(上記のケースほど確定的ではありませんが)、やはり「正面」ということになります。
正面衝突の恐れが最も高いのであれば、たとえば戦車の全周を均等に装甲するのは、資源の無駄遣いというものです。それよりも、たとえ側面や背面の装甲を薄くしたとしても、その分を正面の装甲に追加すれば、全体としてはより強い戦車ができる、と考えるのが普通です。側面の装甲の薄さは「できる限り、相手に正面を向けて戦う」という、戦術によってカバーすればいい、というわけです。
正面がダメなら、側面から
そこで、本稿の主題である「迂回・側面攻撃」の話が出てくるわけです。
いま書いたように、軍隊は側面の弱さをカバーするために「常に敵に正面を向けて戦う」という作戦を基本にしています。
……ということは、上手いこと作戦を立てて「敵の側面を攻撃する」ことができれば、圧倒的優位に立てるのではないか……これが「迂回・側面攻撃」の基本的な考え方です。
特に、正面攻撃を継続しつつ、同時に側面を攻撃する「十字砲火」は、相手が方向転換しようにもできないということもあり、非常に強力で、これをやられると普通はひとたまりもありません。
一両の戦車や一人の歩兵という話だけでなく、集団になった場合でも、この「側面攻撃は強い」という原則は当てはまります。
たとえば、ゲームなどでありがちですが、歩兵の後ろに砲兵が付き従っている陣形を考えてみてください。砲兵は遠距離戦は得意ですが、接近戦は苦手です(と、しましょう)。そこへ側面から攻撃をしかければ、砲兵に苦手な接近戦を強いることができるのではないでしょうか。
このように、相手の陣形が「正面から戦う」ことを前提に形作られている場合、時として、側面からの攻撃に意外なほど脆かったりします。
さらに、少々余談になりますが、英語には「flank」という、一単語で「側面攻撃」を意味する単語があります。たとえば「側面攻撃をせよ」という命令は「Flank them.」という具合です。
一単語で「側面攻撃」を表現できるなんて……英語ってのは、やっぱ戦争屋の言葉なんですかねえ(遠い目)……
などという偏見に満ちあふれた冗談はともかく、それだけ古来から「側面攻撃」が持つ意味が重要だった、ということの表れなのかもしれません。
では、どうやって迂回するか?
以上で「側面攻撃」の重要性を強調する部分は終わりです。
次は「そもそもどうやって側面攻撃を可能な状態に持って行くか?」つまり「どうやって迂回するか?」について、ちょっと考えてみたいと思います。
敵も自分の側面が弱いことはうすうす分かっていますから、そう簡単に迂回はさせてくれません。たとえば、第一次世界大戦の欧州大陸においては、双方が相手に迂回をさせまいと塹壕線に延長に継ぐ延長を繰り返した結果、北はバルト海から南は地中海に至る、文字通りの「大陸縦断塹壕」が完成してしまったほどだったといいます。
では、いかにして敵を迂回し、側面を攻撃するか?
いくつか方法はあるでしょうが、代表例としては以下が挙げられます。
・奇襲 … 不意を突きます。決まれば強力ですが、事前に察知されてしまうと失敗です。
・側面包囲 … 一部の戦力で敵を正面に引きつけて逃げられないようにしつつ、残る戦力で側面を包囲します。安定して強い戦法ですが、兵力で上回っていないと難しいです。
・側面突破 … 敵側面の部隊を撃破します。正攻法ですが、敵側面の部隊を短時間・低損害で撃破する上手い方法を考えないといけません。
ここでは「側面突破」の一つの例として、マケドニアの名将ハンニバルが指揮した「カンナエの戦い」を取り上げてみましょう。
カルタゴ軍を率いるハンニバルは、二倍の兵力を誇るローマ軍相手に、中央に数は少ないが精強な歩兵を配する一方、側面には、精強で兵力でも上回る騎兵を配置しました。
繰り返しになりますが、中央の歩兵は、ハンニバル率いるカルタゴ軍の方が、兵力の面でかなり劣勢でした。しかし、側面の騎兵は強かった。このことが勝敗を分けます。
戦闘が開始されると、ローマ軍は優勢な歩兵兵力を生かすべく、中央突破を計ります。
しかし、もう少しでカルタゴ軍の中央歩兵が突破されるかに思われたその時……ローマ軍騎兵を迅速に撃破したカルタゴ軍の騎兵部隊が、ローマ軍歩兵を後ろから攻撃したのです。全周囲を包囲されたローマ軍歩兵はパニックに陥り、半分の戦力しかない相手に完敗を喫しました。
まとめ…急がば回れ
今回紹介した「迂回と側面攻撃」については、ほとんどそのままゲームでも応用できると思いますが、たとえば「方向転換」の考え方がないゲームには、ちょっとあまり応用が利かない場面もあるかな、という気がします。
とはいえ、ハンニバルばりの「二倍の敵を作戦勝ちで撃破する」というのは、一度はやってみたいですよねえ……
というわけで、今回はこのへんで。
また次回!