皆さんは「かまいたちの夜」というアドベンチャーゲームをご存じでしょうか。これは90年代に家庭用ゲーム機向けとして発売され、当時からの古参ゲーマーに今も根強く支持されている作品です。
今回、iOS版が登場したのを知ったので、どんな感じかご紹介したいと思います。
そもそも「かまいたちの夜」って何よ?
「かまいたちの夜」はミステリー風のアドベンチャーゲームとして知られています。冬休みに雪深い山奥のペンションに遊びに来た、若い主人公とガールフレンドが、連続殺人事件に巻き込まれるというストーリーです。天候の悪化のせいで外部と連絡が取れないという、いわゆる「クローズドサークル」の一種ですね。
珍しくもないジャンルではありますが、今作は選択肢によって展開が分岐するという、アドベンチャーゲームの構造を最大限に生かしています。たとえばどういうことかというと、主人公が事件の解明に失敗すると、ペンションにいる人が犯人によって皆殺しにされるという、ホラー的な展開になってしまうのです。
クローズドサークル自体は、よく「名探偵コナン」などの推理もので扱われるありふれたテーマですが、今作では「もし探偵役がいなかったら?」とか「もし探偵役がヘボだったら?」、どれだけの惨劇が起きるか、というIFのシナリオを、かなり克明に描いています。
内容自体も、登場人物たちが疑心暗鬼になって追い詰められていく描写など、白眉そのものです。
いわゆるバッドエンドというやつですが、本来はミステリであるはずなのに、プレイヤーが望めば全くジャンルの異なるホラー的なシナリオも読めるというのは、小説や映画などではできない、ゲームならではの楽しみ方と言えそうですね。私は「かまいたちの夜」はこのiOS版が初めてですが、元は二十年近く前のゲームだというのに、今も色あせない新鮮さに舌を巻きました。
……と、ここまではついつい印象的だったホラーシナリオばかりに言及してしまいましたが、本題のミステリもなかなかの出来です。本作は長年のうちに移植に移植を重ね、たとえばこのiOS版では選択肢のやり直しがすごーくお手軽になっているために、発売当初は高難度が注目された謎解きも、iOS版ではクリアするのはさほど難しくありません。私も犯人は一発で当てましたし、その後、選択肢を選んでトリックを解き明かしていくのも、2,3回やり直すだけで済みました。
また、この手の謎解きゲームの選択肢は、テストで言うマーク式と同じで、消去法で答えを絞り込めるために難易度が下がってしまうという、大きな欠点を抱えているのが常です。
しかし、このゲームがさらに面白いのは、選択肢の文面が考え抜かれていて、正確なトリックをあらかじめ推理して把握しておかなければ、正しい選択肢を選ぶのがかなり難しくなっている、という点です。これを「意地悪」と受け取ることも可能かもしれませんが、私はこれはかなり良いアイデアだと思いました。
ちなみに、舞台は現代とされているので、94年に発売されたバージョンと比べると、携帯電話やインターネットについて言及されるなど、シナリオが一部修正されています。
2週目からが本番。ネタバレして「かまいたち」の真の魅力を紹介
(この章には軽いネタバレが含まれますので、ネタバレが駄目な人は読み飛ばしましょう><)
さて、ではここからはお待ちかね、クリア後のお楽しみを、ちょっとだけネタバレしてご紹介しましょう。
本作は一般にホラーでありミステリであるとして知られていますし、実際、私も今回iOS版で初めてプレイするまではそう思っていたのですが、実はそれにとどまらない面白さを持っているのでした。
無事に犯人を捕まえてミステリ編をクリアすると、次の周回からは選べる選択肢が増えます。その増えた選択肢を選んでいくと、本編とは全く異なるストーリーが進んでいくのです。
全く異なると言っても程度は様々でしょうが、本作の場合は本当に全く異なります。主なものだけでも「オカルト」「スパイアクション」「コメディ」などなど。中には「なんじゃこりゃw」というような、ジャンル不詳の苦笑するしかないような分岐もあります。
驚くべきは、ストーリーが巧みに作られているので、これだけ多種多様なシナリオなのに、矛盾が一切ないことです。道理で20年を経ても、移植のたびに注目されるわけです。
シナリオ以外の面…現代人向けによく手直しされてるけど、往年のファンには不満かも?
最後になってしまいましたが、インターフェースやシステムなど、シナリオ以外の、アドベンチャーゲームをどれだけ快適にプレイできるかを決める面について言及したいと思います。
現在、この手のアドベンチャーゲームと言えば、アニメ風のキャラクターの絵を何種類か用意して、人物の感情の起伏を表現するのが一般的になっています。そこへ来て「かまいたちの夜」と言えば、青いシルエットで描かれた、独特の雰囲気のある立ち絵で有名です。
が、今回の移植版では、その独特の立ち絵は全て省かれ、グラフィックの要素は背景となる実写写真のみになっています。ここは往年のファンの間では議論を呼んでいるようです。
ただ、前述の通り私はiOS版で初めてプレイしましたので、よく分からんというのが正直なところではあります。私と同じ新参者の方であれば、さほど気にする必要はないのではないでしょうか。
ただ、同じグラフィックでも背景写真の方はHD画質に変更され、実に綺麗です。高解像度のデバイスをお持ちの方ならきっと満足すると思います。
サウンドも、なんでも移植に当たってオーケストラを利用するなど、気合いが入ったリニューアルが行われたようで、なかなか良い雰囲気が出ています。
画面表示は、デバイスを縦長に持って、まるでWebページをスクロールするようにテキストを読んでいき、キリの良いところでページめくり、という独特の形式になっています。
ページ毎に細かく章分けされており、この画像のような分かりやすい画面で、セーブなど意識せずとも手軽にジャンプできるのは、現代人向けの調整と言えそうですね。これのおかげで、周回プレイも大変楽になっています。外出先で空き時間にプレイする方も多いでしょうから、この変更は前向きに捉えていいのではないでしょうか。
実際のところ、iPadでアドベンチャーゲームをプレイする際、テキストを読み飛ばすために画面を指で連打する自分には、どこかで違和感を感じていました。スクロールとページめくりを併用する今作のような形式だと、スイスイ読めて、ジャンプポイントも分かりやすいです。
ボタン式にはボタン式なりに、ボタンを押すまで次の展開が分からない独特の緊張感という利点があるので、今作のシステムは手放しで褒められないところはあります。
それでも、成熟のあまり硬直化しつつあるアドベンチャーゲームというジャンルに、一石を投じる挑戦と言えるかもしれません。
システム面については、一般的な機能が一通りそろっていますが、セーブデータの扱いに少し注意が必要かもしれません。というのも、今作は上述したように周回プレイすることによって一部の選択肢がアンロックされていくわけですが、周回データはセーブデータ毎に保存なので、消してしまうと最初からになります。ご注意を。
また、残酷表現を調整する機能があるのも、ホラー要素のある実写作品である今作ならではの特徴です。
これは残酷表現を「弱」にした場合。強いぼかしが入っている上に、色もグレースケールに変換されています。
こちらは残酷表現「中」。ぼかしがやや弱まって、色もそのままになりました。
そして最後に、ぼかしを完全になくしたそのものズバリの残酷表現「強」……と、言いたいところですが、これがなかなか良くできていていい感じに怖く、いい歳した男である私でもちょっとドキッとするほどでありますので、ブログに載せるのは気が引けます><
私自身も残酷表現は「中」にしてプレイしているほどです……
よろしければご自身でお確かめ下さい ^^;>
でも、ご覧のとおり「弱」にすればショックはかなり軽くなるので、残酷表現が苦手な人でもプレイできるかもしれません。
まとめ … 「有名作品なので一度やってみたかった」そんな人なら買って損なし
というわけで、いやー、語り継がれるのも納得の良作でした。
価格は2013/08/11 時点で1000円と、iOS向けゲームとしては必ずしも安いとは言えませんが、価格に見合う出来だと思います。
往年のファンからどう評価されるかは、私自身が新参者なのでちょっと分かりかねますが、昔からある名作なので「機会があれば一度やってみたかった」という、私のような人もいると思います。
そういう方には、自信を持っておすすめできる作品と言えますね。
おまけ1:モデルになったペンション「クヌルプ」
本作をプレイしていると、美しい背景写真で描かれる山荘がとても雰囲気があって「一体どこにあるんだろう?」と思ってしまいます。どうやら昔の人もそう考えたようで、写真のほとんどが、長野県に実在するペンション「クヌルプ」で撮影されたというのは有名な話らしいです。
が、「クヌルプ」と聞いて私はピンと来ました。これは私が敬愛する文豪、ヘルマン・ヘッセの作品の題名です。
作中ではペンションの名前は「シュプール」とされていますが(あるルートではネタで変わりますがw)、小ネタとして「ヘルマン・ヘッセ」の名前が出てくる場面があります。
ひょっとして、ペンションに「クヌルプ」と名付けたオーナーさんは、私と同じヘルマン・ヘッセのファンなのでは……? と、思うと妙な縁を感じてしまうので、いつか実際に行ってみたいと思います。
気になった人は、是非クヌルプのホームページに行ってみましょう。
おまけ2:一時期話題になった系列作品「428」
「かまいたちの夜」を作ったチュンソフトという会社は、その後も合併してスパイク・チュンソフトなどと社名を変えながら、継続的にサウンドノベルを発表しているようです。
ま、まあ、その、どうやら「かまいたちの夜」ほどの商業的成功を収めたタイトルはないようですが、それでも数年前に発表した「428 ~封鎖された渋谷で~」はゲーム業界で高い評価を得て、注目を集めました。
そのあまりの評価の高さに、私もやってみたいなあと常々思っていたのですが、Wiiを持っていなかったのでとっさには手が出ず、そのままずるずると時間が流れていったある日、iOS版の登場を知って「おおー待ってたぜ!」と意気揚々と購入。
しかし……うーん。一般ユーザーのレビューなど見てても非常に高い評価を得ている本作で、私自身もかなり楽しめましたが、なんというか、ネタバレを避けるというのもありますが、それを抜いても非常に記事にしにくいゲームでして。とはいえ記事にしないのももったいないので、ここで軽く紹介しちゃいたいと思います。
このように、実写を使った表現が特徴の本作。長いゲームなのによくこれだけの数の写真を撮ったなあと感心しきり。一部の役者の方の演技にも、光るものがあります。
この手のゲームとしては珍しい複数主人公制。この画面はゲーム開始直後のものですが、物語を進めると増えていきます。
このようなチャートを操作して、主人公を切り替えながら話を読み進めていきます。
謎が謎を呼ぶシナリオもなかなか凝っていて楽しめますがうーむ……やはり「かまいたちの夜」と比べると、個人的には一段落ちる気がします。
*2015/08/11 記事タイトルを「ミステリ? ホラー? ……いいえ、これはiOS版「かまいたちの夜」です」から変更しました